腸内ケアで眠りの質を高めよう
現代人の5人に1人が抱えているといわれる睡眠トラブル。
実は腸の働きも睡眠に深く関係していることをご存じでしょうか。秋から冬にかけて季節の変わり目は、自律神経が乱れて寝つきが悪くなりやすい季節。
腸内をケアして、よく眠れる体づくりを始めましょう。
東京医科歯科大学名誉教授
藤田紘一郎 先生
ふじた・こういちろう 東京医科歯科大学医学部卒業、東京大学大学院修了。医学博士。専門は寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。東京医科歯科大学教授などを歴任。1983年、寄生虫体内のアレルゲン発見で小泉賞を受賞。2000年には、ヒトATLウイルス伝染経路などの研究で日本文化振興会社会文化功労賞、国際文化栄誉賞を受賞。『人の命は腸が9割』(ワニブックス)、『病気を防ぐ「腸」の時間割 老化は夜つくられる』(SB新書)など著書多数。
Q1睡眠トラブルが起きる原因は?
A. 体内時計の乱れが一因です。
私たちが眠気を催すのは、脳の中心にある松果体(しょうかたい)から分泌される睡眠ホルモン「メラトニン」の作用によるものです。メラトニンの1日の分泌は 体内時計によって管理され、朝日を浴びると分泌が止まります。その後、再び約15時間後に分泌量が増え始めます。しかし、昼夜問わず明るい環境にさらされることや、不規則な生活は、体内時計の乱れの原因になります。体内時計が乱れると、昼間に活動して夜に休息する人間本来の生体リズムが狂い、いわゆる〝時差ぼけ〟状態に。その結果、メラトニンの生成や分泌がうまくいかなくなってしまうのです。
さらにストレスも大敵です。緊張モードの交感神経の働きが夜になっても活発なままだと、交感神経からリラックスモードの副交感神経への切り替えがスムーズにいかなくなり、寝つきも悪くなりがちです。
体内時計の乱れは、太陽の光を浴びることでリセットされます。本来の生体リズムを取り戻し、1日を快調にスタートさせるためには、毎日同じ時間に起床して朝日を浴びることがポイントです。その際に10回ほど深呼吸するとより効果的です。また、1日3回の食事も体内時計の調整に役立ちます。特に朝食は欠かさないこと。腸の動きはダイレクトに脳に伝わるため、朝食を食べることで腸のぜん動運動が始まり、体内時計のスイッチが入りやすくなるのです。
その他、ストレスをため込まないよう、こまめな気分転換を心がけ、自律神経の働きを整えることも大切です。
Q2腸が睡眠の質に関係しているって本当?
A. 腸内細菌が睡眠ホルモンの生成にかかわっています。
メラトニンの生成には、必須アミノ酸の一種「トリプトファン」という栄養素が必要になります。しかし、トリプトファンは食品からしか摂取することができません。そこで活躍するのが 腸内細菌です。腸内細菌が肉や魚、乳製品、大豆製品などに含まれるタンパク質を分解・合成し、トリプトファンをつくることで、メラトニンの生成にかかわっています(左図)。
腸には約100種、100兆個から600兆個の細菌がすみつき、互いに共存共栄しながら腸内フローラと呼ばれる生態系を形成しています。腸内細菌の数が多く、豊かでバランスのよい腸内フローラが形成されている腸ほど、メラトニンの生成も盛んになります。
ちなみに、心の安定をもたらすホルモン「セロトニン」は、メラトニンになる前段階のもの。腸内細菌が減って働きが衰えると、セロトニンが不足し、メラトニンも不足することに。うつ病と不眠症の発症が相関関係にあるのは、こうした理由からなのです。腸内細菌は睡眠の質や心の健康に大きく関与しており、健やかな生活のためにも、活発な腸内細菌がすむ腸内環境を維持することが大切です。